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7-14 突然の刺傷事件 2

last update Last Updated: 2025-05-28 21:22:52

 その頃、翔は朱莉の部屋へ来ていた。

今夜はたまたま仕事が早く終わったので、朱莉と引っ越しの件について話し合いをしていたのだ。その時、突如翔のスマホに着信が入ってきた。

「ん? 何だ? この番号は……全く知らない相手からだ」

翔は着信先を見て首を傾げる。

「翔さん。でも念の為に出たほうが良いのではないですか?」

お茶を出しながら朱莉は言った。

「あ、ああ。そうだね」

朱莉に促されて、翔は電話に出た。

「はい、もしもし……。ええ!? 姫宮さんが……刺された!?」

「え!?」

(そ、そんな……姫宮さんが刺された……一体誰に……?)

朱莉は足が震え、自分の身体を抱え込んだ。翔の電話はまだ続いている。

「はい……はい。分かりました。すぐに向かいます!」

電話を切った翔は朱莉を見た。

「朱莉さん……大変だ。姫宮さんが何者かに刺されたらしい。道端に倒れていた処を近所の人が見つけて救急車を呼んだそうだ。今、広尾の救急病院で手術を受けているらしいからすぐに行ってくる」

翔が席を立った時、朱莉がその腕を掴んだ。

「待って下さい! 私も……私も一緒に連れて行って下さい!」

その眼はいつになく真剣だった。

「あ、朱莉さん……だけど……蓮が……」

翔はベビーベッドで眠っている蓮を見た。

「レンちゃんは……連れて行きます! お願いです……どうか私も姫宮さんの傍に……」

朱莉は翔の腕に縋りつき、涙を浮かべている。

「! 分かった。一緒に行こう」

「はい!」

朱莉は急いで蓮の為に準備してあるママバッグを持ってくると、ベビーベッドで眠っている蓮をそっと抱き上げた。

「ごめんね……レンちゃん。一緒に病院へ来てね?」

そして3人は翔の運転する車で姫宮が救急搬送された病院へと向かった――

****

 広尾にある救急病院へ着くと、既に二階堂が到着していた。

実は車の中で翔が朱莉に頼んで二階堂に連絡を入れるように頼んでいたのだった。

「鳴海! 朱莉さん!」

二階堂は手を振ると2人に駆け寄って来た。

「先輩、姫宮さんの様子はどうなんですか!?」

翔は二階堂に詰め寄った。

「二階堂さん……姫宮さんは無事……なんですよね?」

朱莉は目に涙を浮かべながら二階堂を見た。

「あ、ああ。命に別状はないみたいなんだが……まだ手術中なんだ。それで京極が……今手術室の前に来ている」

「「!」」

翔と朱莉に衝撃が走った——

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